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2026.11.04

株式譲渡と事業譲渡の違いは?手続き・税務・簿外債務・許認可の比較|海外企業が日本企業を買収するときの選び方

株式譲渡と事業譲渡の違いを手続き・税務の観点から解説するカバー画像(契約書と会議室)

海外企業が日本企業を買収する際、スキームの中心候補は株式譲渡と事業譲渡です。株式譲渡は株主が株式を売り、対象会社の資産・負債・契約・従業員・許認可はそのまま会社に残る包括承継に近い形です。事業譲渡は会社が選定した事業資産等を個別に移転し、従業員の同意や契約の相手方同意、許認可の再取得が必要になることが多いです。中堅以下の日本M&Aでは株式譲渡が実務上よく選ばれますが、簿外債務を切り分けたい場合は事業譲渡が有利になる場面もあります。本稿では経済産業省の中小M&Aガイドライン、会社法、国税庁の公表資料をもとに、株式譲渡と事業譲渡の違いを手続き・税務・簿外債務・許認可の観点で比較します。

1. 株式譲渡:会社ごと買い、リスクも包括的に承継

  • 売主は株主、買主は株式を取得します。対象会社の法人格は存続し、資産・負債・契約・従業員・許認可は原則として会社に残ります(経済産業省「中小M&Aガイドライン」)。
  • 手続きは比較的簡明です。譲渡制限株式の場合は定款に従い取締役会または株主総会の承認が必要で、クロージングは株主名簿の名義書換が中心です(株券発行会社は減少)。
  • 買主は偶発債務や簿外債務なども会社ごと引き継ぐため、デューデリジェンス(DD)の重要度が高いです。取引先契約のチェンジ・オブ・コントロール条項があれば、相手方同意が必要になり得ます。

2. 事業譲渡:選んだ事業だけを個別承継

  • 売主は会社、買主は選定した事業用資産・負債・契約等を個別に承継します。従業員の転籍には個別同意が必要で、許認可は原則として再取得、契約は相手方同意や更改が一般的です(中小M&Aガイドライン)。
  • 会社法467条により、事業の全部の譲渡、または重要な一部の譲渡(譲渡資産の帳簿価額が総資産の5分の1を超える場合。定款でより低い割合を定め得る)は、効力発生日の前日までに株主総会の特別決議が必要です。特別決議は会社法309条2項です(e-Gov法令検索)。
  • 簿外債務や不要資産を切り分けやすい反面、個別承継の事務負担・再許認可・契約巻き直しのコストが大きくなります。

3. 税務の主な違い(個人売主・法人売主・買主)

  • 個人が株式を譲渡した場合:国税庁タックスアンサーNo.1463によると、原則として申告分離課税で所得税15%+住民税5%、復興特別所得税を合わせて実務上よく示される実効税率は20.315%です。
  • 事業譲渡の売主(会社):譲渡益は法人税の課税対象です。対価のうち課税資産の部分(のれん、建物、設備、棚卸資産など)には消費税がかかり、土地や有価証券などは原則非課税です(国税庁消費税質疑応答事例)。
  • 買主側:適格な事業譲受け等で、支払対価が時価純資産を上回る部分は資産調整勘定として認識され、法人税法62条の8に基づき原則60か月で償却します。株式譲渡では単独決算上、同種の資産調整勘定は通常生じません。

4. 外為法・スケジュール上の注意

  • 外為法上の対内直接投資等は、株式取得だけでなく事業の譲受けも対象となり得ます。指定業種では事前届出と原則約30日の待機期間が必要です。詳細はFinGroupの外為法解説記事をご参照ください。
  • 株式譲渡は工程が相対的に短い一方、DDと表明保証・補償交渉に時間を割きます。事業譲渡は株主総会特別決議と個別同意・許認可のリードタイムを最初から織り込みます。

海外投資家・日本進出企業にとってのポイント

  • 「会社ごと買うか、事業だけ買うか」は、簿外債務の許容度、許認可・契約の承継可否、税務コスト、スピードのバランスで決めます。
  • 株式譲渡では、チェンジ・オブ・コントロールと偶発債務の洗い出しをDDの早期アジェンダにしてください。
  • 事業譲渡では、会社法467条の特別決議要件(総資産の5分の1超など)と、消費税・資産調整勘定の扱いを税理士・弁護士と事前確認してください。

FinGroupは、日本進出、日本での資金調達、クロスボーダーM&Aに取り組む企業・金融機関向けにIR・PR・FAサービスを提供しています。詳しくは投資銀行事業および金融メディアThe 3%をご覧いただくか、お問い合わせフォームよりご連絡ください。買収全体の流れは日本企業M&Aの流れ|海外企業が日本企業を買収する際の基本ステップと外為法の事前届出、上場会社の買付け手法はTOB(公開買付け)とは?、対内直接投資の届出は外為法の対内直接投資とは?事前届出・事後報告の手続きと待機期間もご参照ください。

出典

  • 経済産業省「中小M&Aガイドライン」(補足資料等) https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/download/m_and_a_guideline_s01.pdf
  • 会社法(e-Gov法令検索)第467条・第309条 https://laws.e-gov.go.jp/law/417AC0000000086
  • 国税庁タックスアンサーNo.1463「株式等を譲渡したときの課税(申告分離課税)」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1463.htm
  • 国税庁「事業の譲渡を受けた場合の消費税の取扱い」(質疑応答事例) https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/shohi/14/01.htm
  • 法人税法(資産調整勘定・第62条の8)/財務省・国税庁関連解説
  • 財務省「対内直接投資審査制度について」 https://www.mof.go.jp/policy/international_policy/gaitame_kawase/fdi/index.htm

画像:FinGroup オリジナル

免責事項:本記事は公開情報をもとに作成した情報提供のみを目的とするもので、特定の投資や取引を推奨するものではなく、法務・税務・投資に関する助言を行うものではありません。掲載内容は記載時点のもので、法令・通達・運用は変更される場合があります。具体的な案件については、最新の法令等をご確認のうえ、弁護士・税理士などの専門家にご相談ください。